ル・コルビュジエという近代建築を語る上での最重要人物について、二つの文章が提示されました。この近代建築というのは、それまでの石や煉瓦を使った建築ではなく、鉄筋コンクリートを用いた建築で、そういった建築物のイメージがあると分かりやすかったはず。問題に例の写真は載せられていたものの、受験生がそこに着目してイメージを膨らませられていたか、という点については、正直疑問が残るところ。
【文章Ⅰ】は、正岡子規を導入として、視覚装置としての窓について述べられた文章。子規が結核で寝たきりであった、なんてことは知っているのが大前提だったと言える。
【文章Ⅱ】は、住宅が内面的に瞑想(沈思黙考)するための場であるため、風景や光を壁で遮る必要がある、という文章。とにかく窓から外を見ることを書いている【文章Ⅰ】に対し、【文章Ⅱ】では「見る」ためには意図的な外界の遮断が必要、としているあたりが逆説的で面白い組み合わせだったと言える。
複数テキスト問題について考える際には、ジョイント部分がどうなっているのか、どんな意図でその複数のテキストを並べて出題しているのか、が分かると一気に読解が進むよ。
ただ、今回、ちょっといやらしかったのが、【文章Ⅱ】については、「動く視点」と「動かぬ視点」の二項対立で論が進められているにもかかわらず、「動く視点」については、本文内で言及がない、ということ。実は、ル・コルビュジエは住居として考える際に、その中で生活する人々の「動く視点」を考えて建築する、ということを重要視した建築家なんだけれど、その点については、今回の問題からだけでは到達できない。だから、【文章Ⅱ】を完結した文章として読み解こうと努力した受験生は、いたずらに混乱し、肩すかしを喰らうことになったと思われる。ただ「壁で視界を遮断する」という部分だけが問題では採り上げられていた。そういう意味で、共通テストならではの「情報収集能力」が問われている問題だったと言えるね。
まずは問1から。
漢字の問題は昔のセンターと比べて4択になった分、多少簡単になったかな?訓読みと分けたりもしてきているから、問題の幅は広がってるよね。ただの漢字の問題というよりも、語彙力を問う傾向が強まっているような気がするね。
「子規は季節や日々の移り変わりを楽しむことができた」という箇所の内容説明。直前の本文に「自身の存在を確認する」とあるのが、正答肢の「生を実感する」に言い換えられているというのが見極められれば解ける問題。①は「現状を忘れるため」、②は「自己の救済につながる」、④は「外の世界への想像をかき立ててくれた」、⑤は「作風に転機をもたらした」がそれぞれキズだね。
選択問題のキズのパターンとして、「勝手に因果関係」というのがあるから、「ので、から、ために」が選択肢の文中にあった場合は、ちゃんと因果関係が成立しているかどうか、確認しよう。
「ガラス障子は『視覚装置』だといえる」理由を問う問題。直前の「外界を二次元に変えるスクリーンでありフレーム」やその二行前の引用文中の「映像(イメージ)が投影される反射面であり、視界を制限するフレーム」のあたりに着目すれば正答の②にたどり着ける。それにキズが明快だね。①は「季節の移ろい」に限定しているのが×。③は「切り離したり接続したり」、④は「新たな風景の解釈を可能にする」、⑤は「絵画に見立てる」がそれぞれキズ。
ここからちょっと難度が高くなる。
「ル・コルビュジエの窓」の特徴と効果とを聞くという、変則的な問題なんだよね。傍線部中の「確信を持ってつくられた」というのは直前の「操作された」と同義だから、特徴と同時にどんな意図があったのかを考えるべき。「換気ではなく『視界と採光』を優先した」という箇所に着目しよう。さらに、引用文中の「まず壁を建てることによって視界を遮り、つぎに連なる壁面を要所要所取り払い、そこに水平線の広がりを求める」という箇所が「効果」として大切になってくる。この「水平線の広がり」という箇所が、正答肢⑤の「かえって広がりが認識されるようになる」と合致するんだ。
間違えやすいのが④の選択肢なんだけど、この設問文の「効果」というところに着目していれば、「風景への没入」がキズになっているのが分かると思う。
ただ、正答肢⑤の「換気よりも視覚」という表現がちょっとおかしいんだよね。「換気」と「視覚」では語彙のレベルが合ってない。「換気」という動作を表す名詞と合わせるなら「採光」にしないと変でしょう。そういったノイズで正答率を下げてしまうというのは、ちょっと問題としてよろしくないと思うなぁ。
あと、この問題は聞き方としては最終的に「『ル・コルビュジエの窓』の特徴と効果」を問うているので、実は、【文章Ⅰ】限定の問題じゃないんだよね。むしろ【文章Ⅱ】の主題に合致してる。その辺も、短い時間で解いている受験生にとっては、ごちゃまぜになっちゃって分かりにくくなる要因なんじゃないかな、と思うよ。
「壁」によって「風景の観照の空間的構造化」がなされることによって、住宅がどのような空間になるのか、を問う問題。
これも言ってみれば「効果」を問うている問題だね。【文章Ⅱ】には、「住宅は沈思黙考の場である」「心の琴線に耳を傾ける(瞑想の時間)」という表現があるから、ここに着目して、選択肢のお尻を確認するだけで、③か⑤かの二択には絞れるかな。
一応、消しやすいところから順に説明すると、②は「住宅はおのずと人間が風景と向き合う空間になる」がおかしい。④は「一箇所において」が限定しすぎ。①はちょっと分かりにくくなるけれど、採光について述べているだけで、風景についての記述がないんだよね。最後の「心を癒す」も書きすぎかな。
⑤はやらしいね。傍線部が「壁の持つ意味」を述べているのに、⑤の選択肢は「窓」に限定して話を進めているっていうのが一番のキズ。でも、【文章Ⅰ】では「窓」について中心に述べているもんだから、そこの区別は受験生にはつきにくいんじゃないかと思う。「自己省察」も言い過ぎっぽいけど、これだけで×にはしづらいだろうなぁ。
ⅰ、ⅱ、ⅲと、枝問が三つも出てきたというのが、まずは一番の驚きだね。しかも、それが生徒三人の会話の抜き出し、というメタ問題。4択に減らされているとはいえ、苦戦した人が多かっただろうと思う。
まず、こういった穴抜き型の問題の場合、きちんと設問文を復元した方が正答率は高くなる。
ⅰの設問文は「【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】におけるル・コルビュジエの引用文の違いを説明せよ」となるね。
この問題が一番迷うと思う。まず、設問文をよく読んで、「引用文」の比較である、という理解をしっかりして、【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】の「引用文」がどこにあるのか探して印をつけるところから始めなきゃいけない。【文章】同士の比較ではないから、そこは注意が必要。【文章Ⅰ】では「開口部」としての「窓」について述べられているが、【文章Ⅱ】ではただの壁について述べられている、っていうのが核心になると思われる。でも、いやらしいことに、【文章Ⅰ】の引用部分にも、実は「窓」という語句は登場してないんだよね。
そういった読みをした上で、選択肢の吟味に移ると、①と②はキズが深いから消せるものの、③と④にはほとんど違いがないんだよね。結局③の「壁の外に広がる圧倒的な景色」というところくらいしかキズはないんじゃないかな。これは何かしら凄い景色があるわけじゃなくて、「四方八方景色に囲まれていたら圧倒的に感じる」、という内容だったから、一応違うと言えるよね。
ⅱの設問文は「【文章Ⅰ】の筆者はなぜ正岡子規の例を取り上げたのか」となるね。
これはまだ分かりやすい方かな。傍線部Bの「ガラス障子は『視覚装置』だといえる」を境に、正岡子規の話をル・コルビュジエの話とつなげていってるからね。
ⅲの設問文は置き換えにくいね。「【文章Ⅱ】と関連づけたときの【文章Ⅰ】の主題は?」とでもすべきなのかもしれないけれど、直前に「子規の話題は」とあるから、あまり、【文章Ⅰ】全体を意識することはせずに、「子規の話と【文章Ⅱ】との関係は?」くらいで読んだ方が分かりやすそう。
正答肢③の、「子規の書斎も沈思黙考の場として機能していた」というのが、結局、出題者がこの二つの文章を並べて出題した意図だったんだろうね。
最初にも言ったけど、こんな風に、複数テキスト問題には必ず、それらのテキストを並べた出題者の意図、というのが存在するんだ。
この意図(ジョイント部分)をきちんと把握することが、とても重要だし、そういった練習を積んでいくようにしよう。