今回は、グループディスカッションのコツについてお話しします。探究活動の基本的な活動になりますし、大学入試でも特に後期試験なんかでは課す大学も増えてきました。
まず、第一に意識しておかなければならないのは、なんとなく話をしていれば「議論」になるわけではない、ということです。特に、受験や採用試験においては、合否を決められるためにディスカッションをしているわけですから、気の抜けた授業での雑談のようなディスカッションがなされるわけではありません。皆、合格するために、周囲のライバルを出し抜くために、必死になっています。
私が就職活動をしている頃から(昔は就職活動を経て、一般企業で働いていました)、採用試験でグループディスカッションを課されることが増えてきていました。当時は証券会社やIT企業に多く見られる傾向だったと思います。大学生とはいえ皆、議論が不慣れで、四苦八苦しながら挑戦していました。強引に進行係を買って出ようとする人、何にでも反対意見を言おうとする人、何か話さねばと焦る人、結局何も話せずに意気消沈している人、等々。そんな中で私がたどり着いた必勝法(?)は、「大局を見る」ことでした。
ディスカッションで一番陥りがちなのは、討論に執着しすぎて議論の目的を忘れてしまう、という罠です。自分のアイデアにはある程度の自信を持ってるはずですし、批判の応酬になれば感情的にもなります。就職試験の場でも何度もそういったシーンを見ました。その場合、結局声の大きい方が勝ちますが、次の試験会場には大抵両者ともに姿がありませんでした。大局を見誤っていたからですね。試験官は別に声の大きい強引な人を欲しがってるわけではありません。議論を建設的な方向に導いて、結果を出す人が欲しいのです。「リーダー」と言うとき、「たくさん発言しなければ」と考えがちですが、進行係も、アイデアマンも、指摘役も、意見の回収係も、単なる役割の一つに過ぎません。逆に言えば、全ての役をこなせなければならない。リーダーの資質として重要なのは、議論が前に進んでいるかどうかをチェックし続ける大局観です。
これは非常に難しいです。ディスカッションの最中というのは、①人の意見を理解する、②自分が何を言うかを考える、という複数の思考を同時に行っている状態です。実はこれすらあまり出来ていません。①に終始すると発言できなくなりますし、②に終始すると、独善的な発言を文脈無視で発してしまい、失笑や反感を買います。この「話す」と「聞く」との並行思考をできるようになるためには、かなりの訓練が必要です。例えるなら、両手両足を使ってドラムの練習をしているような感じですね。そして、さらにその上に必要な大局観というのは、③自他の意見が目標に向かって進んでいるかを考える、ということです。イメージとしては、空中から議論している様子を見守っている感覚ですね。三思考の同時並行、難しいでしょう!?
そういった「本番」に備えて、学校の授業などで練習をする際に、どんなことを心がけておいたらよいか、三点、具体的なアドバイスをしておきます。
①「聞く」ターンを「話す」ターンよりも多く取る。
(聞く:話す=8:2くらいでちょうど良い)
②反対意見を出す際は、必ず代替案を提出する。
(代替案のない反論はただの愚痴である)
③下準備をしっかりする。
(本来、議論は「意見を考える場」ではなく、「持ち寄った意見をすりあわせる場」である。)
まず①についてですが、並行思考に慣れていない段階では、特に「聞く」ことを重視した方が良いです。聞きながら話す力の方が、話しながら聞く力よりも身につきやすいと言えるでしょう。
次に、議論をする上で知っておいて欲しいのは、「批判は蜜の味」ということです。自分で何か新しく意見を発することと、既にある意見を批判することとの間には、困難さの点でもの凄い差があります。前者には創造性が必要ですが、後者には不要です。前者は自分の立ち位置を熟考せねば出来ませんが、後者は反対という立場そのものにアイデンティティを置き得ます。そして何より、後出しジャンケンのようなものですから、後者は往々にして前者に対して上から目線になります(ネットに散見される批判の文言は非常に偉そうであったりしませんか!?)。出した意見を即座に上から目線で批判されるなら、誰も意見を出さなくなりますよね。「論破」なんて言葉が最近よく聞かれますが、ディスカッションで「論破」してしまった人は、試験では間違いなく不合格になります。
反対意見を出す際に、これを頭に入れておかないと、大局を見据えた議論は出来ません。次第に感情的な反対の反対、の応酬になって、議論の目標から遠ざかっていきます。そもそも議論を前向きに進めるためには弁証法的な展開が必要です。テーゼ(正)に対するものとしてアンチテーゼ(反)が求められますが、それはジンテーゼ(合)に向かってアウフヘーベン(止揚)できるものでなければなりません。ちょっと難しく書きすぎましたね。要は、反対意見を述べるのは、元々の意見を良くするためでなければならない、ということです。
これを議論の実践の場に適用すべく書いたのが、②です。安直にアンチテーゼを述べるだけでなく、ジンテーゼまでを視野に入れて発言すれば、議論はスムーズに前に進みます。ジンテーゼは次のテーゼになるものですから、二次的とはいえ創造していることになり、無責任な批判、という印象も無くなります。是非、覚えておいて下さい。
最後は③です。勘違いしている人が多いようですが、会議(議論)は「意見を考える場」ではなく、「持ち寄った意見をすりあわせる場」です(大人になればよく分かります)。上述の弁証法で言えば、アンチテーゼはテーゼ無しには生じません。限られた議論の時間にテーゼとアンチテーゼを両方産み出そうとするのは非効率的です。「考える時間」と「話す時間」を分けましょう。前者は一人で出来ますが、後者は皆とでなければ出来ません。事前に持ち寄ったテーゼを叩き台として、議論の時間内でブラッシュアップ(磨き上げる)させるというのが、クオリティを高める秘訣です。もちろん、試験の本番では、課題が事前に明かされていることも少ないですから、事前準備なんて万全にはできませんね。ですから、試験本番までに、どれほどたくさんの知識を得て、思考してきたか、ということが問われることになります。
最後に、受験で必要となる場合に対するアドバイスを3点加えておきます。
④基本的に「賛成+改良」のスタンスで。
その方が感じが良いですね。でも、オウム返しを繰り返しているように見られるとアウトです。
⑤快刀乱麻な解決策などないと思おう。
高校生の浅知恵で即解決できる時事問題などありません。あるように思えたとしたら、それはアンチテーゼを無視した極論です。
⑥問題の争点を探ろう。
同じレベルで意見の対立をしていても埒が明きませんね。その問題の争点が何なのかを見極めることこそが、討論の一番の目的だと考えてください。
これらは、小論文の試験問題を解く際にも同様のことが言えます。いずれ、小論文の書き方について紹介する際に、詳しく説明することにしましょう。